「美容サロンで働くプロフェッショナルな方々のこだわりをとことん知りたい。いっそ語ってほしい!」そんな編集部の思いから、bionly plusでスタートするこちらのインタビュー企画【my select! -プロのこだわり-】。
記念すべき第一回目は、新潟県長岡市のヘアサロン『ciel』代表の寺迫正悟さんです。
ヘアサロン『ciel』寺迫正悟
東京の『M・TANIGUCHI』在籍時には、雑誌掲載や講師活動の他、各種コンテストでの受賞歴も多数。後進の育成も精力的に行い、受賞者や講師も輩出している。その後、新潟県長岡市にサロンをオープン。
現在はサロンワークに専念し、幅広いバリエーションで創り分け生み出されるヘアスタイルはもちろん、積極的に取り入れているリラクゼーションメニューも人気。
すべては、サロンの“ストーリー”を感じていただくために
―― まずは、単刀直入に寺迫さんの『こだわり』を教えてください。
こだわり…人から見ると「こだわってる!」と感じるかもしれないのですが、僕の中では必要に迫られてというか。サロンのストーリー・コンセプトが【青空 普遍 心地いい】ですが、それをお客様に実感していただくために努めていたら、結果的に多岐に渡ってこだわっている感じになっちゃいました。
なので「コレにこだわろう!」というわけではないんですよね。
―― 無意識のこだわりという?
そうですね。
でも、以前は【おもてなしは○○、施術は○○ …】とひとつひとつコンセプトを設定してそこに自分のこだわりや想いをぎゅっと詰め込んでいたんです。お客様や僕以外の美容師さんに対して“美容師としての自分”をまっすぐ言葉で表現しているつもりでした。
それが、6年前にお店の改装をするにあたって、お客様の繫がりから大手企業のCMなども手掛けるクリエイティブディレクターの内藤 昇氏(Noboru inc.)とご縁をいただき、サロンのディレクションをお願いした際に、当時のコンセプトを見て「保険の約定とか、ちょっと面倒な家電のトリセツみたいで何も伝わってこない」と言われまして(笑)
―― それはちょっと衝撃ですね…
そう。そこから多岐に渡って提案や確認を繰り返し、現在のコンセプト【青空 普遍 心地いい】に集約していただきました。
シンプルな3つのキーワードになったことで、やるべきことが僕の中で明確になり、まずは「サロン時間での腰や首への負担や疲労感を解消したい」というところからサロンのリニューアルはスタートしましたね。
『心地よさ』にテーマを絞れたことで、限られた予算と日程の中で一気に奔走することができました。
例えば、椅子だと腰の悪いお客様には腰当てをご用意していたのですが、むしろそれが無くても長時間負担を感じずに座れる椅子はないのか?と、長岡から往復車中泊の深夜バスで大阪に出向き、ショールームで全部のセットチェアに座ってみたり。
シャンプーシートも同じく、リラックスするはずのシャンプーで腰や首への負担が大きいと疲れてしまうこともあったり。それも色々と試している時に、大手さんで決めようかなと思っていたら「うちので一度寝てみてください!」と持ってきてくれたメーカーさんがいて。実際に寝てみたらそれがとても良かった。
ただ、肩から背中にかけてのマッサージには向かない形状のネックレストだったので 、主にシャンプーするためにはこちらのメーカーのもの、ヘッドスパルームには形状はもちろん寝心地の良さ、そしてフェイシャルメニューまで対応できるフルスペックのユニットを導入しました。
―― お話を伺っていると、施術面もそうですがそれ以外のところもこだわりが詰まっていそうですね。
やっぱりより良い空間をお客様に感じていただけるようにしていますね。
例えば、コーヒーは丸山珈琲出身の伝説的焙煎人によるcielオリジナル。ハンドドリップ方法もしっかり教わってここでしか飲めない、絶対に美味しいという自信があるコーヒーをお出ししています。
お菓子は、都内の老舗有名店やフランスやベルギーで経験を積んだパティシエの方のチョコなどを沿えています。
インテリアだと、上京した頃から長年憧れていた代官山のオリジナルファニチャーショップで選びに選んだソファーですし、ウォーターサーバーもデザインに惹かれたモノだったり。
ブルーの時計は珍しいペーパー素材なのですが「サロンのコンセプトに合わせるならコレね!」とディレクションしてくださった内藤さんの一言で決まりでした(笑)
シザーも”切られ心地”を重視している
―― 様々なこだわりがある中で、ここからはシザーをピックアップさせていただければと思いますが、今はどちらのものを使われていますか?
メインで使っているものは、新潟県三条市にあるミンクシザーさん(ミンクコーポレーション)のものです。ミンクさんは、このメインのものと顔周りなど小回りが利くものの2丁使っています。
セニングシザーは2丁とも別の違うメーカーさんのもの。今はミンクさんとFAITHシザースさんの2社がメインです。
―― メインで使われているミンクシザーさんのシザーとはどのようにして出会ったのでしょうか。
これがまたハサミ屋さん泣かせで(笑)
僕はまず、気になったものは一週間お借りするんです。もちろん、貸し出しNGな場合もあるのでそれはその段階で終わり。
お借りしている一週間の間に、第一段階で重さやフィット感など指とのフィーリングを見ます。そして、次に様々な髪質と、ウェット・ドライ両方のカットをしてみてクリアしたら買わせていただくという感じです。
―― 実際、これまで何丁くらいお試しまでいきましたか?
30年以上美容師をしているので…よくわからないですが(笑)400丁以上は見ていて、その中からお借りしたものは恐らく50丁もないはず。
―― かなり狭き門ですね。
その50丁の中から、実際にサロンワークで使うとなったものは12~15丁かな。東京にいた頃は4〜5年使ったシザーを後輩にプレゼントしたり安く譲ったりもありましたが、今メインのシザーはもう20年以上使ってますね。
―― 長年使われているとメンテナンスにもこだわりがあるのでは?
ミンクシザーさんのシザーとは都内で美容師生活をしている時に出会ったのですが、当時の営業の方がとても熱心な方で。メンテナンス方法も僕が納得するまで聞かせてもらったんですが、包み隠さず教えてくれました。
なので、研ぎに出さずに自分でやってます。刃物って研ぐとどうしても短くなっちゃうんですが、もう全然短くならない。ここもハサミ屋さん泣かせかも…。
―― シザーもやはりお客様の心地よさを重視されて選ばれているのでしょうか。
そうですね。あと、僕がカットを初めて教わった先輩が切られ心地にすごくこだわっていたので、その影響もあります。
実際、東京にいた頃は青山や原宿で勉強のために当時のカリスマ美容師さんに切ってもらったことがありますが、切られ心地が痛いことがあったんですよ。でも相手が相手だったから「痛っ」って言えなくて我慢してた。あ、仕上がりはバッチリでしたけど!
それに、やっぱりプロだから道具が使い捨てのようなものは良くないのかなと。どうせ使うなら長く使えるものがいいと思いながら選んでいます。
―― そんなこだわりのシザーですが、実は他に気になっているものなどありますか?
今だと、現在使っているセニングのメーカーさん(FAITHシザース)のシザーが気になっています。もちろん、シザーとしての質もいいんですが、僕が所有欲を満たしてくれるデザインが好きというのもあって。しつこくなくてちょうどいいトレンド感とクオリティが一体となっているところに惹かれますね。あとは、いつかは自分の手に合わせてフルオーダーメードで作ってみたいという願望はあります。もうちょっと、う〜ん…お店と僕がオーダーするに値するレベルになれたらつくります(笑)
美容室・美容師の意味が真剣に問われているのを感じる
―― それでは最後に、美容師という職業へのこだわりを教えてください。
美容師として「どう生きたいか」「どうありたいか」ということから3年くらい前に降りたんです。くくりを取っ払って、ひとりの人間として深堀りしつつ、目の前のことに一所懸命でありたい。
お店だけに留まらず一期一会は色々な場面で感じていますし、出逢う方々ひとりひとりの感じる『わたし』があってそのどれもが正解じゃないかなと。
そのうえで『わたし』を変に演出せず、感じてもらってることを素直に受け入れて、それぞれの『普遍的な心地よさ』をテーマに精一杯想像力や俯瞰力を働かせて、『元氣になってお帰りいただくためには?』と目の前のことに一所懸命取り組んでいます。
特に、オンライン化が急激に進んでいる世の中で、オフラインでしかやりようのない私たちのようなシゴトは、わざわざ出向く価値やその人にとっての美容室・美容師の意味が真剣に問われてると感じてもいるので…ちょっと怖い部分もありますが、適度なプレッシャーも感じつつ頑張りたいですね(笑)
あとは…単に施術時間を長く感じてしまうと心地良さを感じてもらえなくなるので、カウンセリングもできるだけ端的に要望を理解して、お客様に最適な対応を瞬間的に決められる自分でいなければならない、と思いながら仕事をしています。
『ciel』 SHOP INFO
【住所】新潟県長岡市信濃2-6-1 1F
【営業時間】(月)9:00~18:30
(水)9:00~19:30
(木・土)9:00~21:00
(金)9:00~18:30
(日・祝)9:00~20:00
【定休日】毎週火曜日
(祝祭日の場合営業、翌前日振替)/月曜不定休
【URL】http://cielciel.com/